世界保健機関(以下、WHO)が提案したライフスキル。
一言で言うと、「生き方の技術」。元々、これは時代の変化に適応していくために、学校教育の指導者や若者に向けて提案されたものです。
しかし、その内容は今日のビジネスパーソンにおいても役立つものであり、特にメンタルヘルス向上に役立つものと言えます。
ライフスキルとは何か、私たちのプロフェッショナル/パーソナルライフに、どう活かしていけば良いのか。早速見てみましょう。
10のライフスキルとは?
ライフスキルは、「日常生活で生じるさまざまな問題や要求に対して、建設的かつ効果的に対処するために必要な心理社会能力」と定義されています。体系的な知識というよりは、ヒューマンスキルに近いと言えます。
WHOが提案するライフスキルは、以下の10項目です。
① 意思決定
② 問題解決
③ 創造的思考
④ 批判的思考
⑤ 効果的コミュニケーション
⑥ 対人関係
⑦ 自己意識
⑧ 共感性
⑨ 情動(感情)への対処
⑩ ストレス対処
ビジネスパーソンであれば、おそらく本やセミナーで見かけたことがある言葉も多くあるかと思います。
なぜこれらが重要になってきているのでしょうか。これまでの産業構造では、「指示されたことを確実に効率的にこなす」といった、オペレーションを的確に行うという側面が強かったと言えます。しかし、昨今はあらゆる業種において、イノベーション創出やスピード感のある環境変化への適応、迅速な意思決定が求められるようになりました。さらに、それは経営者だけではなく、社員一人一人においても、これらのスキルが必要になってきていると言えます。
どのライフスキルを持っていますか?
では、このライフスキルの活用は、どう始めたらよいのでしょうか。
まずは自分が自信を持てるスキルはどれだろう、と眺めてみてください。「ないもの探し」になりがちですが、できているところ、強みと感じているところから始めることで、伸びしろのあるスキルに前向きに取り組むことができます。
強みが確認できたところで、伸びしろスキルを考えてみましょう。ご自身が何に困っているか、をあらためて考えてみましょう。それは、思うような成果が出せないのか、同僚との関係を改善したいのか、打たれ弱いことなのか。自分の悩みを少し遠くから眺めて書き出してみると、課題として認識され、クリアになってきます。
「自分自身から課題を切り離すこと」ができれば、後はその要因を深堀りをすることで、①~⑩のどれを優先的に取り組むべきかが見えてくるでしょう。
これらのライフスキルは、メンタルヘルスという観点からも、ビジネスパーソンにとって重要です。産業医として活動する中で、社員からは「周りから『できない人』だと思われたくないから人に聞けない」、「違う業務が入り込んだら、どうしてもそっちを優先してしまい、自分の業務は後回しになってしまう」と聞くことがあります。
しかし、その考えによって、実は自分自身を苦しめてしまったり、過重労働になってしまったり、さらに職場に行くのが辛くなってくるというケースは、決して少なくありません。
昨今のビジネス環境のスピード感や、会社の事業転換、場合によっては他社との統合という荒波の中、これまで通りの考えや感覚では対応ができなくなっていることは既知の通りです。もっと自分の頭で考えよ、主体的であれ、という命題に変化してきているのです。自分で情報を集めたり、周囲と健全で建設的なコミュニケーションを取りながら、創造的な思考を膨らませるスキルが必要となってきている、と言えるのではないでしょうか。
ライフスキルを鍛えて、幸せを取り戻す
他者と対等に、「自分はこう考える、なぜなら」という議論をするためには、今自分が何に対して、どう向き合っていて、そこにはどんな意味(意図)があるのかをじっくり考える時間や思考的体力が必要です。
周囲でどんな出来事が起きているのか、という外側への意識よりも、自分の中の情報にアクセスをするような意識を持ってみる。このプロセスを繰り返すことで、思考の筋トレとなり、次第に自分軸ができてきます。
パーソナルライフに照らし合わせるとどうでしょうか。「時間」という限られた資源の中で、優先順位をつけていくためには、自己意識や家族内の効果的なコミュニケーションが必要になってくるでしょう。育児や介護中の方にとっては、シッターやヘルパーの利用等、時間を生み出すための創造的思考も重要ですし、自分の時間が減ることによるストレスへの対処力も重要です。
時代は、変化しています。企業の中で、「指示された仕事だけを確実にこなすこと」の意義は昔よりも小さくなっています。多くの業種にとって、「これまで通りではいかない」ということは、肌でわかってきています。「何があれば自分らしくいられるか。」 生きがいや働きがいを手に入れるために、このWHOのライフスキルは糸口になってくれるのではないでしょうか。